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K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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帚木蓬生『受命』・・・木村草弥
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──新・読書ノート・・・・初出Doblog2007/11/17──

     帚木蓬生『受命』・・・・・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
              ・・・・・・・・角川書店2006年6月刊・・・・・・・・・・

今度は、集中的に読んでいる帚木の表題の小説である。
はじめにWebKADOKAWAに載る同社の紹介記事をそのまま転載しておく。
作者へのインタビューも載っている。
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日系ブラジル人医師、津村リカルド民男は、北京の国際学会で平壌産院の許日好(ホ・イルホ)と知り合い、北朝鮮に知識と技術を伝え、指導して欲しいと熱心に勧誘される。返事を保留した津村は、その後、旧友のいる延吉(イェンチー)を訪れる。そこは、中国東北部、豆満江(トマンガン)を境に北朝鮮と隣り合う朝鮮族自治州。旧友の車世奉(チャ・セボン)は脱北者を支援するNGO活動を行っていた。津村は、車世奉にガイドされ、川向こうの国を眺めているうちに、招聘医師として北朝鮮に行く決意を固める。北園舞子は、在日朝鮮人の平山会長が経営するスーパーの庶務課で働いていた。北朝鮮との強いパイプがある会長の目にとまった舞子は、万景峰(マンギョンボン)号に乗船して会長とともに元山(ウオンサン)に向かう。ツアー・コンダクターの寛順(カンスン)は、亡くなった恋人の弟・東源(ドン・ウオン)とともに、中国国境から北朝鮮への潜入を敢行する。三者三様の北朝鮮入国。だが、彼らの運命が交錯するとき、現代史を塗り替える事件が勃発する。国際サスペンス書き下ろし1000枚。
1947年、福岡県生まれ。東大仏文卒後、TBS勤務の後、九大医学部卒。現在、精神科医。93年「三たびの海峡」で吉川英治文学新人賞、95年「閉鎖病棟」で山本周五郎賞、97年「逃亡」で柴田錬三郎賞受賞。他に「受精」「国銅」「薔薇窓」「エンブリオ」「千日紅の恋人」などがある。

●日曜作家の平日
─このたび、新刊『受命』が刊行されました。昨年八月に『千日紅の恋人』を出されてから十カ月。平日は夕方まで精神科医としてのお仕事もありますし、また、一千枚強の枚数を考慮しますと、非常に速いペースではないかと思いますが、いかがでしょうか。
帚木 いえいえ。だいたい年に一作ですからね。枚数も一日四枚程度。例年一千枚ぐらいは書きますから、普通のペースではないでしょうか。

─ 一日の生活のリズムは、どんな感じでしょうか。
帚木 四時に起床して五時まで執筆して、その後、お風呂に入ったり、朝食をとったり、ジョギングしたりして、それから出勤するまでに、また一時間くらい執筆することが多いです。二時間ありますから、四枚は書けますね。

─クリニックを退勤した後、夕方から夜にかけてはいかがですか。
帚木 クリニックは五時に終わりますから、帰宅して夕食をとり、執筆はせいぜい一時間くらいです。疲れているときは、三十分くらいで、八時には寝るようにしています。本職はやっぱり精神科医ですから、まあ、日曜作家のように書いているというところでしょうか。

─この作品の構想から脱稿までは、どんな流れだったのでしょうか。
帚木 九二年に『三たびの海峡』で朝鮮半島のことを書いていましたし、いつかまた書かなければいけないという気持ちは、以前からありました。ただ、北朝鮮の傍若無人というか、言語道断で理不尽な国をきちんと取り上げる必要があるなという気持ちを持ったのは、もっと後のことでしたが。五年くらい前から資料集めを始めて、これなら行けるという感触があったのが三年くらい前でしょうか。また、『受命』は角川書店から刊行された『受精』のシリーズ作品ですから、シリーズとしての制約もあります。それと組み合わせてできるようになったのが二年前くらいです。執筆には、去年丸々一年間かけました。

●北朝鮮の取材旅行
─平壌の街の様子や田舎の自然描写など、読みながら眼前に映像が浮かんでくるようでしたが、北朝鮮に取材旅行はされたのでしょうか。
帚木 昨年、執筆している間は行けなかったのですが、北朝鮮には、この四年の間に三度行っています。もちろん作品に出てきたところ全部は歩けなかったですけど、平壌、元山、開城と見て回りましたので、行けなかったところも、だいたいこんな感じかなというイメージをつかむことはできました。

─北朝鮮には、どのようにして入られたのですか。
帚木 旅行会社のツアーに普通に申し込んで、北京から飛行機で入りました。その旅行会社に応募すれば、犯罪とか怪しい組織に加わってなければ行けるんじゃないんでしょうか(笑)。何も問題はなかったですから。しかし『受命』刊行後は、要注意人物となって入国できないでしょう。

─北朝鮮ツアーの印象はいかがでしたか。
帚木 一言で言うと、お仕着せの旅行ですね。観光バスに乗って、主体思想塔や革命博物館などお決まりの見せなければならないコースを回らせられるという感じです。街には看板が一切ないし、スケジュールが途中で変更されます。ツアーで実際に回るコースを最後まで観光客に知らせないというのも向こうの手ですね。そのため、こちらはずっとついていくしかない。写真を撮るのもダメです。ツアーガイドがどこへでも必ずついてきて、単独行動はできないですね。このあたりのことは『受命』に書いてある通りです。

●変化する日朝関係
─『受精』の刊行が一九九八年になります。それから八年の間、日朝関係が随分変わりましたが。
帚木 そうですよね。八年前は北朝鮮のことは、それほど頭にはなかったです。拉致が判明したのが四年前ですが、やっぱりあのあたりからですね。これはとんでもない国だということが分かってきた。そのうえ核査察も拒絶していた。さらに、だんだん脱北者が増えてきて、あの国が見え出してきたということもありますね。それでこれはもう放っておけない、これを題材にしなくては、作家としていけないんじゃないかという気がしました。それは前に『三たびの海峡』を書いているからではなくて、世界にとって北朝鮮の現状は最も憂慮すべき問題ですから。これが本当の意味での動機です。ただ、角川書店での発行ですし、前作『受精』との結びつきは、課題としてどこか頭の隅にはありました。ようやく結びつくと思ったのが二、三年前ですね。取材もそれで本格化してきました。

─拉致問題が明るみに出たのが二〇〇二年九月。このとき、小泉首相が訪朝し、北朝鮮の指導者が正式に認め、謝罪したわけですが。
帚木 そうですね。でも、拉致問題は昔から囁かれてはいましたよね。それを日本政府は否定してきた。被害者の家族たちの訴えはずっとあったのです。これは日本の暗部でもあるのです。この問題が出てはっきりしたことは、北朝鮮という国は、絶対に見過ごしてはいけない国だということです。ところが、韓国は北朝鮮のほうを見ないようにして生活していますし、中国は北朝鮮に存在してほしいという腹があります。それから、米国も強硬な態度を見せてはいますが、この地球上から北朝鮮がなくなっては困るというところもあるのではないでしょうか。そのへんの力学みたいなものも、小説の中でちゃんと整理したいという気持ちがありました。

─ここへきて、韓国政府もようやく動き出した様子です。横田めぐみさんの夫が韓国人拉致被害者かどうか、DNA鑑定を行い、きわめて可能性が高いと認めました。
帚木 韓国の拉致被害者は、五百人はいるといわれていますが、それがやっぱりうやむやにされてきました。いうなれば北朝鮮というライオンを前にして立ちすくんでいるネズミかなにかの状態が、韓国ではないでしょうか。強いことが言えないですしね。金大中前大統領の「太陽政策」もその表れで、聞こえはいいですが、要するにご機嫌取りだったということではないでしょうか。

●多角度からの視点
─さて、作品の内容にふれていただきますが、北京での国際医学会で津村が北朝鮮の平壌産院にスカウトされる冒頭のシーンに続いて、津村が延吉に赴きます。
帚木 北朝鮮と国境を接している中国のあのあたりは、延辺朝鮮族自治州といって六市二県から成っています。

─中国の東北部に日本の九州より大きな朝鮮族自治州があること自体、驚きでした。
帚木 中国には朝鮮族が二百万人いますが、そのうち半数近くがこの地域に集中しています。昔は国境もなかったに等しいわけで、脱北者が出始めて監視が厳しくなるまでは、自由に行き来していたのではないでしょうか。今はもう寸断されている形ですが。

─実際にご覧になられたのですか。
帚木 延吉には一度行きました。国を隔てる川の幅が狭いから、向こう側の建物も見えるぐらいです。

─作中でも津村が川の向こうにある北朝鮮を眺める場面がありました。
帚木 表向き、張りぼてを並べて、本当に劇場国家みたいです。ショーウィンドウだけを見てるという印象でした。

─津村は延吉に赴いて、脱北者を支援するNGO活動を行っている車世奉に案内されるのですが、この車世奉という人物は中国に対してものすごく批判的ですね。
帚木 作中にも書いてますが、中国と北朝鮮を隔てるあの壁さえなくせば、北朝鮮は間違いなく崩壊します。自由にあそこから出入りができるようになれば、かつての東欧がそうであったように、どんどんそこから人々が流出しますからね。ところが、中国はそうさせない。そして、難民を難民として認めていない。まったくとんでもない話ですが、そんな国が国連の安全保障理事会の常任理事国をやっているのです。それから、今年、北朝鮮の指導者が特別列車に乗って広東あたりまで行ったのを、中国は手厚くもてなしている。旧正月前の民衆が最も忙しい時期に、極悪非道の指導者をあんなふうに手厚くもてなすなんて、もう本当に狂気の沙汰だと思います。それぐらい、中国としては北朝鮮に、現体制のまま存続してほしいということではないでしょうか。

─脱北者を北朝鮮に引き渡す、その一点に中国の本質があると車世奉に言わせています。とても印象に残りました。
帚木 絶対にそうです。この一点をもって推して知るべしです。やっぱり真実というのは、そんなに複雑なことではない。一つのことが分かれば、あとは全体が見えてくるのではないでしょうか。韓国の立場もそうだし、中国の立場もそうだし、アメリカの立場もそうです。たとえば、北朝鮮がなくなれば、日本も韓国も脅威を感じなくなり、アメリカ軍は不要になってしまう。そうさせたくないのがアメリカの立場ではないでしょうか。そういう意味では、この小説を執筆しながら配慮したのは、いろんな視点から北朝鮮を見つめるということでした。一つは、今お話に出た車世奉。これは中国側からの視点。また東源と寛順は韓国側からの視点。朝鮮総連に尽くした平山会長は在日朝鮮人としての視点です。ブラジル国籍を持つ主人公の津村は、より第三者的な目で北朝鮮を観察しますし、平凡な日本人女性の舞子もそうです。

●地に落ちた理想主義
─北朝鮮の外部からもそうですが、内部からも観察者の目が光っていました。たとえば姜将軍は、生き証人のようにこの国の歴史を見続けてきました。
帚木 姜将軍は七十代で、やっぱり建国時の朝鮮のよさを知っている世代ですからね。新しい国が戦いの後に生まれるという期待を抱いて、エリートの軍人になっていったはずですけど、途中で変質してしまった。当初の理念はこんなふうではなかったという思いは強い。そして、だんだん世代を重ねるにつれて貧しくなってゆくのを感じ出した世代ですね。そのうえ知性もあるし、理性もあったから、このままではいけないということは、肌で感じていたはずです。

─建国時の朝鮮のよさという言葉が出てきましたが、作中では先代の指導者が政権の座に就いたときから、民衆を欺く虚偽があったと書かれておりましたが。
帚木 たしかにそうですが、そのこと自体はみんな最初は知らない。それに先代の指導者には、やはり初代なりの理想主義があったのではないでしょうかね。やっぱり初代ですから物笑いにはされたくない。そう思って必死にやってきた面はあるのではないでしょうか。ところが、二代目になると、それがもう上辺だけの、劇場だけの、少数生き残りの政策に、まさしく変質してしまったということですよね。

─食料の配給を止めたというのが象徴的です。
帚木 九〇年代に入った頃から、配給が止まり出したのではないでしょうか。二代目は現実的には八〇年代に実権を握っていましたから。もちろんそういう情報は父親には隠蔽していた。やはりこうなってしまったのは、失政が原因でしょうね。農業政策を後回しにして、工業一辺倒になりましたし、上辺の数字だけを合わせればいいような政策ですからね。配給をストップして自給しろと言われても工場の機械を売るしかない。売れば工場では何もできないですしね。

─北朝鮮に潜入した東源と寛順を誘導する康春花は、身分の低い一庶民の視点から北朝鮮の国情をつぶさに語っていますね。
帚木 生理用品もない、口紅もない、化粧品はイワシの臭いがするとかですね。女性が美しくありたいのに、スカーフもろくに手に入らない。靴だって。

─こんなのは国じゃないと、康春花に言わせています。
帚木 そのように多角的に、外側からも内側からも見て、やっぱり辻褄が合ってしまうということですね。その辻褄というのは、非道なことが行われている国だということです。それも一人の指導者によって。一般国民は自由を奪われ、何もできないようにされている国。これを書かずにはおられないですよ。やっぱり作家として。

─ともすると敬遠してしまいがちなテーマですが、まさに帚木さんならではのお仕事と感じました。
帚木 まあ、そんなことはないですが。ただ、家族とか恋愛とか、そういうものも大切ですが、私にとっては、このテーマを放置して、他のテーマというのはないですね。アメリカ人の作家には書けないし、ましてや韓国人の作家には書けない。また中国人の作家にもそこまでの資料調べはできないでしょうしね。そういう意味では日本人の作家が一番いい位置にありますしね。

●日本と韓国のヒロイン
─ところで、前作『受精』に登場したヒロイン、舞子と寛順が『受命』でも再登場します。彼女たちは恋人を失った後、ブラジルのサルバドールの病院に行って、非常に辛い思いをして帰国するという共通の過去を背負っています。舞子は、その後、在日朝鮮人の平山会長が経営するスーパーチェーン店の庶務課で働き、たまたま路上でうずくまっている会長を救護したことが縁で、万景峰号に乗船することになります。『受精』からの読者には待ちに待った舞子の登場という感がありますが。
帚木 私はいつも続編を書くときは、数年の間隔を経て書くわけですけど、前作の登場人物にまた会えたなという嬉しさはありますね。続編ですから、たしかに制約はありますけど。ただ、登場人物が、生きてたんだね、懐かしいねという感じで筆が進んでいく続編のよさというものを感じます。

─舞子は会長から一緒に北朝鮮に行かないかと誘われますが、一旦は迷います。彼女の背中を押したのは何だったのでしょうか。
帚木 やはり津村が平壌の病院にいるというのが大きかったですね。津村は『受精』でも助けてくれた恩人だし、恋人を失った傷はそう簡単には癒えないわけで、それがようやく四、五年経過して癒えてきて、二人が互いに接近してゆく素地が揃ってきたということでしょうね。

─寛順の場合は、いかがですか。
帚木 亡くなった恋人の弟が北朝鮮に潜入すると聞いて、寛順としては心が動かないわけはなかったでしょうね。恋人の面影を残してますし、自分の弟のように思って面倒を見てやりたいという気持ちがあった。東源と寛順は、いわば東振(東源の兄)という太い絆で結ばれています。

─今後、津村と舞子、寛順と東源の関係がどう進展していくか非常に興味深いです。
帚木 そうですね。ですが、今は全力投球を終えたところで、その先を思いやる元気はありません(笑)。また数年すると、力が湧いてくるかもしれません。
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私の下手な要約や解説よりも、作者じきじきの、この文章の方が、はるかに判りやすい。
ただ、この紹介記事には、読者に「結末」をさらけ出すことは避けているので、結末は判らない。
少しだけ書いておくと「将軍様」一家はボツリヌス菌を醤油に入れられて絶命する。
このプロットが、現実には、今後どう展開するか。小説と現実の政治の世界とは違うから誰にもわからないと思う。小説だから、サブの登場人物は、みな死んでしまった。
これが創作という「虚構」のいいところである。
ほぼ一日かけて読了したが、いつもながらお見事な文章力とプロットである。
ぜひ、ご一読を。


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