
草紅葉ひとのまなざし水に落つ・・・・・・・・・・・・桂信子
草紅葉クサモミジは野草や低木が初冬になって色鮮やかに色づくことを、こう形容する。特別に「草紅葉」という名の草や木がある訳ではない。
写真①のような鮮やかな場所は、どこにでもあるものではない。オトギリソウ、オカトラノオ、トウダイグサなどは特に美しい。
草紅葉を、古くは「草の錦」と呼んだが、『栞草』には「草木の紅葉を錦にたとへていふなり」とある。
けだし、草紅葉の要約として的確なものである。
そして、その例として
織り出だす錦とや見ん秋の野にとりどり咲ける花の千種は
という歌を挙げている。霜が降りはじめる晩秋の、冷えびえとした空気を感じさせる季語である。


秋芳台のように草原と露出した岩石のコントラストが見られる所の草紅葉が趣があって面白い。(写真②③)
この季語は、小さく、地味で目立たない草が紅葉することによって、集団として錦を織り成す様子を表現しているのである。
その結果として、「荒れさびた」感じや「哀れさ」を表すのである。
古来、詩歌にたくさん詠まれてきたが、ここでは明治以降の句を引いておく。

猫そこにゐて耳動く草紅葉・・・・・・・・高浜虚子
くもり日の水あかるさよ草紅葉・・・・・・・・寒川鼠骨
帰る家あるが淋しき草紅葉・・・・・・・・永井東門居
草紅葉へくそかつらももみぢせり・・・・・・・・村上鬼城
大綿を逐うてひとりや草紅葉・・・・・・・・渡辺水巴
内裏野の名に草紅葉敷けるのみ・・・・・・・・水原秋桜子
たのしさや草の錦といふ言葉・・・・・・・・星野立子
草紅葉磐城平へ雲流れ・・・・・・・・大野林火
絵馬焚いて灰納めたり草紅葉・・・・・・・・吉田冬葉
白根かなしもみづる草も木もなくて・・・・・・・・村上占魚
山芋の黄葉慰めなき世なり・・・・・・・・百合山羽公
鷹の声青天おつる草紅葉・・・・・・・・相馬遷子
菜洗ひの立ちてよろめく草紅葉・・・・・・・・小野塚鈴
草もみぢ縹渺としてみるものなし・・・・・・・・杉山岳陽
酒浴びて死すこの墓の草紅葉・・・・・・・・古館曹人
吾が影を踏めばつめたし草紅葉・・・・・・・・角川源義
良寛の辿りし峠草紅葉・・・・・・・・沢木欣一
屈み寄るほどの照りなり草紅葉・・・・・・・・及川貞
学童の会釈優しく草紅葉・・・・・・・・杉田久女

2008年初夏に旅した「能取湖畔のサンゴ草の紅葉」 ← も有名なところなので、ここにリンクに貼っておく。
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