
──藤原光顕の歌──(44)
藤原光顕の歌「ここまで来れば二〇首」・・・・・・・・・・・・木村草弥
・・・・・・「芸術と自由」誌No.317/2019/10/01掲載・・・・・・・・
ここまで来れば 藤原光顕
あの人も逝ってしまって夜が来て「ポツンと一軒家」なんぞ観ている
それだけで今年も納得してしまう成らない柿の若葉陽に照る
大丈夫歩いて帰ろう 七月の影くっきりと従いてくるから
さっき言った動物の名前を言ってください 今日はラクダで来るか
そこでゆっくり眼鏡を拭く たぶんなんとか越えられたはず
水着姿のあの人もいてあの夏のひたすら眩しかった須磨沖
四年経ての学習ひとつキッチンを磨いておればうすれる不安
狭い居間に限界がきて袋などの類いが壁を登りはじめる
いっそ自分が出ていこうかと思う日があって廃品回収車来る
リハビリと思えば歩く薮の中 石ころの坂ひたすら歩く
まるで自分のようなじいさんとすれ違う振り向かないで躓かないで
痛みまでいかないままに存在を主張してくる胃は三日ほど
何某氏(85}老衰死と訃報欄に載る 名無し何某氏は焼酎啜る
あのおばさんがSNSにはまっていると聞けばなんだかおだやかでない
もう少し生きてみようか (AIが神の不在を証明するかも)
〇
ひたすら改憲に突っ走る男 「国難」を好機と思っている たぶん
「国難」だって? うまくいけばボクちゃん戦争ができるかもよ・・・
なんとなく戦争もええかこの辺で そんなところで喋っているのか
平和のための戦力という理屈 そのうちそんな気になってくる
権力を握ってごらんよ誰だって戦争のひとつもやってみたいよ
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いつもながらの光顕ぶし、である。
「あのおばさんがSNSにはまっていると聞けばなんだかおだやかでない」というところなど、気力が充満しているようで嬉しい。
ただ、末尾の歌の「権力を握ってごらんよ誰だって戦争のひとつもやってみたいよ」という「皮肉」が、今のご時勢に、すんなり受けとめてもらえるか、どうか。
今どきは、もっと、直接的に、ハッキリ言わないと、ねじまげて受け取られる恐れがある、と言っておきたい。
とにかくアベは、祖父の岸信介に似て「陰険な策士」であるから、ご注意を。
「リハビリと思えば歩く薮の中 石ころの坂ひたすら歩く」 歩ける間が貴重なのですよ、光顕さん。
歩けなくなる時期が来る、のが怖いのです。どんどん歩いてください。
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