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K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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大西昭彦詩集『狂った庭』・・・木村草弥
大西_NEW

──新・読書ノート──

       大西昭彦詩集『狂った庭』・・・・・・・・・・・・・木村草弥
                ・・・・・・・澪標2019/09/20刊・・・・・・・・

作者はWikipediaによると、こういう人である。 ↓
1961年生まれ。 同志社大学経済学部卒業、神戸大学大学院博士課程前期修了。
神戸新聞マーケティングセンター等を経て、1991年独立。
ユーゴスラビア内戦、阪神・淡路大震災をはじめ舞踏団「白虎社」中南米公演などを取材。
共著に小説『相談師』(2009年)、『借金で死なないための短編小説集』(2012年)、ルポ『神戸・都市経営の崩壊』(2001年)など。
2013年ドキュメント番組『鳥人の旅〜コウノトリ舞う空へ〜』、2015年公開の映画『劇場版 神戸在住』を企画プロデュース。
 神戸山手大学非常勤講師。
2007年「第18回日本海文学大賞(詩部門)」受賞。同年「第16回詩と思想新人賞」入選。2009年詩集『太陽と砂』出版。

この本には題名の「狂った庭」という作品は無い。 これは題名のために付けられたものである。
カバーや中に挿入された絵は本人が描いたものらしい。多芸の人である。
先に引用した記事のように、世界を旅された、というか「放浪」されたようである。
その成果が、この詩集の、特に Ⅰ に稔ったと言える。

その中から少し引いてみよう。

          感覚の発見     大西昭彦

    象は祖先の骨を牙にのせて、長い旅をする。その匂いをたえず感じながら、記憶
   の奥深くにしみこませて、歩み続ける。  ところがあるとき、その骨をぽいっと無造
   作にすて去ってしまう。 観察者はいう。あれは道標なのだと。いつかふたたびその
   匂いに遭遇したとき、彼らは水辺が近いことを知る。

    サハラ砂漠にある小さな集落に、しばらく滞在したことがある。・・・・・      ぼく
   は砂の流れる音を聞き、夜の闇のなかで方位を感知できるようになった。砂漠の民
   トゥアレグは、砂の味でみずからの居場所を知るという。・・・・・・
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この詩は巻頭に置かれるだけあって、作者にも愛着のあるものだろう。
このエピソードは、どこか他でも読んだ記憶があるが、特異なものである。

        ドビュッシーの庭       大西昭彦

    マルセイユの安ホテルの窓から
    小さな裏庭が見えた
    手入れがされないまま植物が繁茂し
    雨に打たれていた
    庭のむこうにある建物の二階
    フランス窓が開いている
    部屋の薄暗がりのなかにベッドがあって
    女の白い乳房が見えていた
    やがて裸の男があらわれ
    窓辺に歩み寄って 庭に目をやる
    若い男で 体毛が薄く
    縮れた栗色の頭髪と陰毛をもっていた
    その下に死んだ蛇のように垂れた白い陰茎があった

    ピアノ曲集「版画」の第三曲「雨の庭」
    この曲を聴くと
    あの裏庭の雨が浮かびあがってくる
    ドビュッシーは1903年にこの曲を完成させた
    その年 レジオン・ドヌール五等勲章を受章
    翌年 最初の妻リリーが自殺未遂を起こした
    鍵盤を連打するような
    あの庭が ぼくのなかにも棲んでいて
    静かに狂って
    夏の雨に打たれている
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ここに「狂った庭」が出てきて、詩集全体の題名と合体するのであった。

       茉莉の夏      大西昭彦

    激しい雨のあとだったから
    船のデッキにはだれもいない
    時化の海は灰色だ
    茉莉と口にしてみた だれもこたえはしない
    船が大きく傾いて足がすべった

    むずかしい字だなというと
    もともとはサンスクリット語よと教えられた
    シャスミンのことだと もうずいぶん前だな
    ある国は国花に定め ある人は死の
    アナロジーだという 甘く冷たい香りの花だ

           ・・・・・・・・・・

    茉莉花茶はベースとなる緑茶の葉に
    ジャスミンの蕾をまぜこむ
    それが夜になると開花して香りをはなつ

           ・・・・・・・・・・

    八百屋の店先で発情する西瓜
    葉蔭にひそむ蜥蜴のぬめり
    夏が 激しく盛っている
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これは Ⅱ の項目に載るものである。

       島へ

    その島に着いたのは日暮れだった
    勤務を終えた工場長の舟に乗って
    日没まえの黄金色に輝く海を走り
    流し釣りで太刀魚を釣ると
    釣果を土産に瀬戸内の小さな島の
    海辺にある民宿のまえで
    舟をおりたのだ

         ・・・・・・・・・・

   あれから十五年がすぎて
   あの小さな島を訪れることがあった
   民宿を見て あぁあのときの島か
   と気づくまでは
   
       ・・・・・・・・・

   夏の海に突きだすように設けられた
   打ちっぱなしのコンクリートの
   釣り小屋にしてはあまりにそっけなく
   それどころか異様な雰囲気をもった建物があって
   まるで小さな要塞か監獄のようだった
   そこはかつて若者たちが
   死の練習をした場所だ
   片道だけの燃料を積んで
   たったひとりで魚雷艇を操り
   敵艦に突撃するために
   暗い海の底を進んだ場所だ
   出撃の日
   手をふる人によって見送られたのか
   帰ってこない人にむけて激しくふられる手に

         ・・・・・・・・・
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最後の詩は、もはや多くの人には未知の、忘れられた物語かもしれない。
敢えて、書き綴った詩人の志を多としたい。
今どきの訳の分からない作品よりも、私の心に、ずっしりと届いたことを書いて終わりたい。    (完)   
   
    

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