
釜の湯のちんちんと鳴る頃あひの
湯を注ぐとき茶の香り立つ・・・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
この歌は私の第一歌集『茶の四季』(角川書店)に載るもので、「夜咄の茶事」という11首からなる一連の中の歌である。
WebのHPでも自選に採っているので、ご覧いただける。
「夜咄の茶事」というのは伝統的な茶道の行事で、作法としても結構むつかしいものだが、私たちは、歌にも「寛ぐ」と書いたように略式にして楽しんだものである。
千利休などが茶道の基礎を固めはじめた頃は、茶道は、もっと融通無碍の自由なものであった。
それが代々宗匠の手を経るに従って、それらの形式が「教条主義」に陥ってしまった。
そういう茶道界の内実を知る私たちとしては、そういう縛りから自らを解放して、もっと自由な茶道をめざしたいと考えた。
だから先人にならって「番茶道」を提唱したりした。
利休語録として有名な言葉だが、
「茶の湯とはただに湯を沸かし茶をたてて心静かにのむばかりなる」
というのが、ある。これは、まさに先に私が書いた利休の茶道の原点なのである。
この「夜咄の茶事」の一連は、私にとっても自信と愛着のあるものなので、ここに引用しておく。
夜咄の茶事・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
冷えまさる如月の今宵「夜咄の茶事」と名づけて我ら寛ぐ
風化せる恭仁(くに)の古材は杉の戸に波をゑがけり旧(ふる)き泉川
年ごとに替る干支の香合の数多くなり歳月つもる
雑念を払ふしじまの風のむた雪虫ひとつ宙にかがやく
釜の湯のちんちんと鳴る頃あひの湯を注ぐとき茶の香り立つ
緑青のふきたる銅(あか)の水指にたたへる水はきさらぎの彩(いろ)
恭仁京の宮の辺りに敷かれゐし塼(せん)もて風炉の敷瓦とす
アユタヤのチアン王女を思はしむ鈍き光の南鐐(シヤム)の建水
呉須の器の藍濃き膚(はだへ)ほてらせて葩餅(はなびらもち)はくれなゐの色
釉薬の白くかかりて一碗はたつぷりと掌(て)に余りてをりぬ
手捻りの稚拙のかたちほほ笑まし茶盌の銘は「亞土」とありて
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