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草弥の詩作品<草の領域>
poetic, or not poetic,
that is the question. me free !
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木村草弥第七歌集『信天翁』鑑賞・・・・・・・・・・三浦 好博(「地中海」編集委員)
木村草弥さんのたくさんの歌集や詩集をその都度読ませていただいて来た筈であるが、あらためてウィキペディアに掲載されている著書を読んでみて、その多さに驚いている。
『信天翁』は作者の言われる様に基本的には、自由律の「未来山脈」に発表された作品という事であったが、以前にも御歌集『樹々の記憶』等で自由律の作品を読ませて戴いていた。
・一休の狂歌を引いてM君から「年賀をやめる」とハガキ
・M君よ、それも分るが年賀状は年に一度の「生存証明」なのだ
・まあ、君のしたいようにすればいいことだが淋しいねえ
歌集の前の方にある歌であるが、実は私も作者にこれを出してしまった事があり、私もこの通りのお返事を頂いた。
このM氏は九十歳であるが、私(偶々私もMである)は未だ喜寿であるので余計身に沁みる。
・〈信天翁〉描ける青きコースターまなかひに白き砂浜ありぬ
・吉凶のいづれか朱き実のこぼれ母系父系のただうす暗し
角川「短歌」に発表された文語定型の、この歌集には例外的作品。
詞書きにそれぞれ「稲田京子さん死去」と「兄・木村重信死去」とあり、一首目の信天翁のこの歌集のカバー絵のブルー系の品格の良さは、稲田京子氏の筆になるものであろう。
二首目の兄・木村重信氏は高名な学者、美術史家であった。
作者には『免疫系』という詩集があり、生物学にも造詣が深いと記憶している。ミトコンドリア・イヴまで行かずとも、ひとは父系母系からそれぞれどれ位の割合で遺伝子を引き継いでいるのだろう。
さて、この歌集『信天翁(アルバトロス)』は当然以前の六つの歌集に繋がるもので、私には手に負えない歌が多々あったが、作者の博学について行けない歌は置いといて、解り易かった歌を更に挙げてみたい。
・水着を剥いで引き出したつんと尖る乳首、若い固い乳房。
・贅肉のない鍛えた体幹、その真ん中の凹んだ臍が綺麗だ 以上「桜」
・街を一冊の本になぞらえると、旅する人はみな読者だ
・歴史の古い町ほど、その本は分厚くなる
・旅人は通りから通りへ巡り歩いて何百とあるページをめくる
・街並みは、街を読み解くための記号である 以上「街並み」
・ウォーキングが流行っている。毎朝一万歩あるくという人も居る
・ヒトは霊長類の一種。サル類は一日中なにをしているのか
・移動は何のためか。採食と給水が主なものである
・「ヒトとは直立歩行する霊長類である」これが定義
・しかし、なぜ二本足で歩くようになったのか 以上「二足歩行」
・ユリシーズの時代には肉体が見事だというだけで英雄になれた
・今では貧弱な肉体の持ち主がコンピュータを操って巨万の富をかせぐ
・その昔「自由律」というだけで刑務所にぶち込まれた俳人が居る
・デカルトの研究者というだけで三木清は獄死した
・北原白秋に「時局」を諭され前田夕暮は自由律から定型へ復帰した
・香川進大尉は「自由律歌人」だからと陸士出の将校に殴打された
・「自由」というだけで何でや?今どきの若者よ、それが時代の狂気なのだ 以上「cogito, ergo sum」
Ⅲ章「cogito, ergo sum」の同名の小見出しの部分。私の属する前田夕暮系の「地中海」の創立者・香川進に触れている。
戦時下の治安維持法によって、考えられないような事が事件にされ命を落とした人々が居た。
しかし今日の日本でも、当時と似たような暗雲が立ちこめている事に警鐘を鳴らしている。 (完)
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敬愛する三浦好博氏から、精細な「書評」を賜った。
私の意図するところを的確に捉えていただき、作者冥利に尽きる、というものである。
一点だけ訂正させていただきたい。
この本の装丁は「目次」の末尾に明記してあるように「倉本修」氏の手になるものである。念のため。
なお読み易いように適宜「改行」したのと、三浦氏の勘違いの箇所は修正した。 有難うございました。
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