
池水に影さへ見えて咲きにほふ
馬酔木の花を袖に扱(こき)入れな・・・・・・・・・・・・大伴家持
馬酔木の花は4月から5月にかけて咲きはじめる。山地に自生するツツジ科の常緑低木で、日本原産の木。
学名をPieris japonica という。私の推測だが、シーボルトが標本を持ち帰り命名したのではないか。
馬酔木は古典植物で、「万葉集」には10首見える。
掲出したのは、そのうちの一つで巻20の歌番号4512に見える大伴家持の歌。
もともと「巻20」は万葉集の一番終りで、大伴家持の歌が多い。
そこから万葉集は家持の編集になるのではないか、という説があるのである。
馬酔木(あしび)の木は有毒のもので、枝葉にアセボトキシンという有毒成分があるのである。
野生の鹿などは、よく知っているので食べないという。花は香りが強い。

色は白が普通だが、写真②のようなピンクのものがある。木の姿もよく、昔から好んで「庭木」として植えられたので、栽培による改良種だと言われる。
先に馬酔木は古典植物だと書いたが、歌に「馬酔木なす栄えし君」と詠まれるように、古代には「賀」の植物であり、栄えの枕詞であった。
俳句にも古来たくさん詠まれてきた。それを引いて終りたい。
花馬酔木春日の巫女の袖ふれぬ・・・・・・・・高浜虚子
春日野や夕づけるみな花馬酔木・・・・・・・・日野草城
馬酔木より低き門なり浄瑠璃寺・・・・・・・・水原秋桜子
月よりもくらきともしび花馬酔木・・・・・・・・山口青邨
染めあげて紺うつくしや夕馬酔木・・・・・・・・原コウ子
花あしび朝の薬に命継ぐ・・・・・・・・角川源義
花あしびかづきて鹿の子くぐり出づ・・・・・・・・阿波野青畝
指さぐる馬酔木の花の鈴の音・・・・・・・・沢木欣一
馬酔木咲き金魚売り発つ風の村・・・・・・・・金子兜太
こころみに足袋ぬぎし日や花あしび・・・・・・・・林翔
宵長き馬酔木の花の月を得し・・・・・・・・野沢節子
邪馬台の春とととのへり花あしび・・・・・・・・小原青々子
囀に馬酔木は鈴をふりにけり・・・・・・・・下村梅子
父母に便り怠り馬酔木咲く・・・・・・・・加倉井秋を
時流れ風流れをり花馬酔木・・・・・・・・村沢夏風
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