
虹消えて了へば還る人妻に・・・・・・・・・・・・・三橋鷹女
この句は、いかにも才女だった三橋鷹女らしく、「虹」に何か望みを抱いていたのだろうか。
その虹が消えてしまって、なあんだ、つまんないの、というような彼女の溜息がこぼれてきそうな句である。
消えて了へば、人妻に還る、という把握の仕方も情熱的だった彼女らしい句。
ここで虹の句を歳時記から少し引く。
虹立ちて忽ち君の在る如し・・・・・・・・・・・・高浜虚子
虹のもと童ゆき逢へりその真顔・・・・・・・・・・・・加藤楸邨
虹といふ聖なる硝子透きゐたり・・・・・・・・・・・・山口誓子
虹なにかしきりにこぼす海の上・・・・・・・・・・・・鷹羽狩行
野の虹と春田の虹と空に合ふ・・・・・・・・・・・・水原秋桜子
天に跳ぶ金銀の鯉虹の下・・・・・・・・・・・・・山口青邨
いづくにも虹のかけらを拾ひ得ず・・・・・・・・・・・・山口誓子
をさなごのひとさしゆびにかかる虹・・・・・・・・・・・・日野草城
目をあげゆきさびしくなりて虹をくだる・・・・・・・・・・・・加藤楸邨
虹を見し子の顔虹の跡もなし・・・・・・・・・・・・石田波郷
虹が出るああ鼻先に軍艦・・・・・・・・・・・・秋元不死男
虹二重神も恋愛したまへり・・・・・・・・・・・・津田清子
海に何もなければ虹は悲壮にて・・・・・・・・・・・・佐野まもる
別れ途や片虹さらに薄れゆく・・・・・・・・・・・・石川桂郎
赤松も今濃き虹の中に入る・・・・・・・・・・・・・中村汀女
「虹」は、ギリシア神話では、女神イリスが天地を渡る橋とされるが、美しく幻想的であるゆえに、文学、詩歌で多くの描写の素材とされて来た。
終わりに私の第二歌集『嘉木』(角川書店)に載せた「秘めごとめく吾」と題する<沓冠>15首のはじめの歌を下記する。
げんげ田にまろべば空にしぶき降る 架かれる虹を渡るは馬齢・・・・・・木村草弥
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