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K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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高旨清美歌集『雀のミサ曲』・・・木村草弥
高旨_NEW

369832_list雀のミサ曲
↑ 「雀のミサ曲」楽譜

──新・読書ノート──

      高旨清美歌集『雀のミサ曲』・・・・・・・・・・・・・木村草弥
               ・・・・・・ながらみ書房2020/06/17刊・・・・・・・・

この本が恵贈されてきた。高旨さんの第四歌集ということになる。
巻末に載る略歴を引いておく。

高旨清美 略歴
1946年生まれ
1985年 第一歌集『モデラート』刊行
1995年 第二歌集『珈琲 パペット』刊行
2006年 第三歌集『無限カノン』刊行
2019年 雨宮雅子作品鑑賞『昼顔讃歌』刊行
「晶」同人
現代歌人協会会員 
日本歌人クラブ会員

この本の「あとがき」に、こう書かれている。
<この『雀のミサ曲』は、私の第四歌集にあたる。2007年から2020年にわたる作品427首を収め、
 タイトルを〈冬の陽のさせる窓辺に聴きてゐる小さき調べ「雀のミサ曲」〉 からとした。
 「雀のミサ曲」はモーツァルト作曲の小さなミサ曲「ミサ・ブレヴィス」の中の一曲である。
 もの心ついてからというもの、いつも大家族に猫を交えての生活を続けてきたが、ある年、一人住いに移行した。十年ほど前のことである。
 人生後半に入りながら、ほぼ初めてと言ってよいひとり暮らしの経験である。
 諸事情により、猫と共にある生活は断念したが、私にとっては昨日も今日も、暮らしはさして変わることはない。
 ・・・・・窓からは、遠く新宿の超高層ビル群が見える。が、周辺は意外なほど静けさが保たれており、ときどき雀やひよどりが窓近い木々に訪れる。
 窓は、しかしながら、空や小鳥のさえずりや心地よい風を送り届けてくれるだけのものではない。
 近隣の窓や、散歩の道すがらの窓から偶然、洩れ聞いてしまう人々の声。
 それらは生きることの苦悩に満ちたものであることがしばしばである。
 一見、何事もなく過ぎて行く日々にも、街の家々の窓からの音や声が聞こえてくるようになったのは、私自身のささやかな生活の変化のゆえであろう。>

多く引きすぎたかも知れないが、この本一巻に漂う雰囲気を、極めて端的に表していると思うからである。
私と高旨さんとの出会いは第三歌集『無限カノン』を読んだときに始まる。
このブログに載せた鑑賞文を読んでもらいたい。 → 「無限カノン」
私が高旨さんに会ったのは、私の第五歌集『昭和』を読む会が、三井修氏のお世話で2012/07/28に東京ルノアール池袋西武横店マイスペースで行われた際に出席して頂いた。
多くの人々が一緒だったので親しく話すことは出来なかったことをお詫びする。
そして昨年、雨宮雅子作品鑑賞「姫顔讃歌」離教への軌跡の本が恵贈されてきた。リンクになっているのでお読みいただきたい。

さて、モーツァルトの「雀のミサ曲」のことである。YouTubeに何曲か出ているが、著作権の関係で後で削除されることがあるので、ここに引くことは遠慮するがネット上で聴ける。→ https://youtu.be/18yt0ipj1q8 など。

この本は、ながらみ書房がやっている「現代女性短歌叢書24」に入れられている。名誉なことである。
この本は章建てにはなっていない。
少し歌を引いてみよう。

   ■深夜ラジオをつければ誰か熱心に古代オリエントを語りてをりき
   ■ましぐらに抹香鯨は降りゆけり深海三千メートル指して
   ■コスモスの揺れゐる村と思ひけりきのふも今日も浅間は見えず
   ■いつの間にのぼりてゐたるオリオンか気づけるときに風やみてをり
   ■三十歳の頃の背丈より五ミリ縮みてわれはこの世を歩く
   ■病棟の窓に聞こゆる夕潮の引くとき長の姉は逝きたり
   ■やうやくに文具通販カタログに見出でぬひと束百本のこよりを
   ■繰り返し読み来し「生誕物語」若きマリヤと懐ふかきヨセフ
   ■霜柱たちやすき関東ローム層 都市にも凛き花稀に咲く
   ■羽毛より細かなる葉をそよがせてジヤカランダの木は飛翔ねがふや
   ■百合の蕊にブラウスの胸汚されて聖餐を受く日曜の朝
   ■おこじよともをこぜとも似る〈おこじゆ〉なりお小茶に食ぶるやはき菓子の名
   ■夜の更けし遊歩道にわれを待つ尻尾のながきよその飼ひ猫
   ■健脚の人にてあれど顔小さくなりて眠りたまひき とはに
   ■シュレッダーにかけし書類を捨てにゆく日日の芥の袋と共に
   ■五日まへ妻を亡くしし向かい家の主が今朝は出勤してゆく
   ■通りひとつ距てて家を移りきてみ寺の鐘の聞こえずなりぬ
   ■乱婚の鳩のつがひの物かげにひそみて真昼思ひ遂げをり
   ■一匹のねずみを腹に納めたる猫はゆつくり振り向かず去る
   ■頭と尾食べ残ししは真つ当なる猫のネズミを食する作法
   ■「火の用心」拍子木たたき声合はせ町会の人 夜の更けをゆく
   ■〈海軍カレー〉といふを食みをりヨコスカに梅雨の晴れ間のひと日あそびて
   ■人の猫をもらひて栖鳳は妖しき〈斑猫〉描きたりけり
   ■登山靴はくは何年ぶりのこと共に歩きし姉今はなし
   ■庭先にかりんの花の咲き満つる家あり五月の軽井沢町
   ■昨日二万歩けふも二万歩ま盛りの春の信濃を歩き尽くさむ

著者は日々の詳細は描かない。淡々と、在りし日の姉や、猫たちの哀歓を精細に観察して歌にする。家猫ではなく、外猫を愛するのである。
猫がネズミを食べるシーンや、その作法など圧巻である。
すべては正確な観察と写生から始まる。
   ■ちいちやんとわが親しめる野良猫を人はそれぞれ違ふ名に呼ぶ
   ■梁山泊の看板女優も既に亡し むらさきテントの色のにじめり
   ■担ぎ屋とふしごとの昔ありしこと夜思へり脈絡もなく
   ■外猫のミイは老いたる天使のやう威厳に満ちてやさしかりけり
   ■用心の深きまなざし向けながら近づきて来ず白猫貴婦人
   ■まろやかに渋み深きを好みたる亡き母に淹る煎茶一服
   ■ユフラテス川はみるみる真二つに割れきバビロンは攻め入られたりき
   ■消防士の訓練のこゑひびき来る さくら吹雪けるわれの窓辺に
   ■カインのごといのち守らるるしるし〈地域の猫〉はさくら耳もつ
   ■樹がない、と少年は声をあげたりき幾度も空を仰ぎゐたりき
   ■しろふくろふのやうなるいとこ茶を点てて侘助椿を庭に育てき
   ■古参新参交じるにちにち おのづから地域猫にも序列生まれき
   ■食物アレルギーの幼なの世話をする友の苦労話を聞きてとき過ぐ
   ■春の野に今年はじめて出会ひたるカナヘビの背の色みづみづし
   ■抑揚の人声に似るあをインコ一羽は一羽を甘くさそへり
   ■三とせまへいたくやせにし肉むらの復して人は体重計にのる
   ■あをうまの目に光あり近づけば乗れと誘ふこゑ雲間より

とりとめのない抽出になったが、著者の日常は、かくも淡々として、かつ静謐である。
今しも届いた「晶」誌に載る高旨さんの一連「花まつり」の歌を引いて終わる。

   ・「光明真言」四行の経ひらがなに書かれてあれば口づさみたり
   ・解き明かしくるる人なく読みてをり四行の経 〈おんあぼきや べいしやらのう・・・〉
   ・〈まに はんどまじんばら はらばりたや うん〉呪文めけどもありがたからむ
   ・薬王院なれば薬効あらたかにあるべし流行病に世は満つ
   ・本物とまがふ黒猫像置かるこの家の庭にもうをらぬ猫

ここでも「猫」である。しかし、流行病コロナウイルス跳梁の今どきの歌として、ぴったりである。
ご恵贈に感謝して鑑賞を終わる。有難うございました。      (完)



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