
山茶花のくれなゐひとに訪はれずに・・・・・・・・・・・橋本多佳子
山茶花さざんかはツバキ科の常緑の小高木で、葉に光沢があり、初冬に椿に似た、一回り小型の五弁の花を開く。
この花の咲く期間は長くて11月から咲きはじめて、次々に咲きつぎ、12月中旬の今もなお咲いている。
この木にも早咲き、仲咲き、遅咲きなどの種類がある。
木の下にはハラハラと落ちた花びらが一杯散り敷いている。
色には白、淡紅のほか、しぼりなどさまざまな品種改良されたものがある。
原産地は日本だが、園芸品種として改良され、庭に植えたり、盆栽にしたりする。正しくは「茶梅」というらしい。
山茶花を音読みするとサンザカとなるが、言いにくいので語順が入れ替わって「サザンカ」となったものである。
サザンカについては先にも書いたが、掲出の橋本多佳子の句が引きたくて、出してみた。

写真②は昔、肥後熊本城主・細川家で改良された「肥後山茶花」である。
「肥後六花」のうちの一つ。
掲出した橋本多佳子の句は、「サザンカが紅ふかく咲いたが、訪う人もなく淋しい」という意味の、老いの寂寥感のただよう作品である。
若くして夫に先立たれ、晩年は奈良で暮らした多佳子の佳品である。
図版③に多佳子の写真を出しておく。

以下、山茶花を詠んだ句を引いて終る。
山茶花のここを書斎と定めたり・・・・・・・・正岡子規
霜を掃き山茶花を掃くばかりかな・・・・・・・・高浜虚子
無始無終山茶花ただに開落す・・・・・・・・寒川鼠骨
山茶花のみだれやうすき天の川・・・・・・・・渡辺水巴
さざんくわにあかつき闇のありにけり・・・・・・・・久保田万太郎
山茶花の散りゆきすでに月夜なる・・・・・・・・水原秋桜子
山茶花の長き盛りのはじまりぬ・・・・・・・・富安風生
山茶花の貝の如くに散りにけり・・・・・・・・山口青邨
山茶花の散るにまかせて晴れ渡り・・・・・・・・永井龍男
花まれに白山茶花の月夜かな・・・・・・・・原石鼎
山茶花やいくさに敗れたる国の・・・・・・・・日野草城
山茶花のこぼれつぐなり夜も見ゆ・・・・・・・・加藤楸邨
山茶花の日和に翳のあるごとく・・・・・・・・西島麦南
山茶花の咲きためらへる朝かな・・・・・・・・渡辺桂子
山茶花の散り重なり土濡れぬ・・・・・・・・原田種茅
山茶花の咲く淋しさと気付きたる・・・・・・・・栗原米作
山茶花にたまさかさせる日なりけり・・・・・・・・望月健
白山茶花地獄絵のごと蜂群るる・・・・・・・・高木雨路
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