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K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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「イプリス」掲載・冨上芳秀の詩「聖なる夜の世界」・・・木村草弥 
イプリス_NEW

──冨上芳秀の詩──(9)

        冨上芳秀の詩「聖なる夜の世界」・・・・・・・・・・・木村草弥
                ・・・・・・イプリスⅡ31号所載・・・・・・・・

 聖なる夜の世界    冨上芳秀

幼い頃から夜が好きだった。夜はいつも私の部屋にやって来るが、
姿はいつも違っている。大きな男であったり、薄汚れた老人であっ
たり、白い乳房の美しい女であったり、小さな健気な男の子であっ
たり、乾いた涙で無理に笑っている女の子であったりする。夜はい
つも無言で私の側に立っているだけだから私の方も話しかけたり、
追い払ったりすることはない。この頃、夜は血管の中に入って、真
っ赤な血を黒く汚しながら、ゆっくり流れてゆく。遠い昔のかなし
い思い出を語っている長い物語だ。誰も知らないし、知りたくもな
い白々しいウソの物語だ。夜は、あらゆる醜いものを聖なる物語に
かえる。鬼は仏様の仮面をかぶって、やさしい女を誑かす。仏様は
鬼の仮面をかぶってかわいい子どもをむさぼり喰う。仏様だってた
まには血の滴る肉を喰いたかろう。「いいのだよ、さあ、私を抱い
て思う存分、欲望の果てに行くがよい」と女になった鬼は仏様の身
体を男にする。鬼は新しい終わりのないかなしい物語を楽しそうに
語りながら闇のなかで大声で笑っている。「では、今度は、私が女
になろう」と仏様は光輝きながら狎れた仕草で鬼を抱いた。



      蝸牛の角の争い

紀元前三百六十九年ころから現在に至るまで、触氏はカタツムリの
左の角の上にいて、ことごとくカタツムリの右の角の上にいる蛮氏
と争っている。二千三百八十九年間も争っている触氏と蛮氏の連綿
と続く運命の戦争を荘子は語ったが、人間の生命は短く、物語の生
命は長い。しかし、人間という種が、種としての生命を生き継いで
いく限り同じように続くのである。触氏と蛮氏は同じカタツムリの
身体を根拠にしているので勝負はけっしてつかない。カタツムリが
梅雨の雨に濡れているアジサイの緑色の大きな葉っぱの上をゆっく
りと這って行く。カタツムリの歩みは遅い。触氏は白いアジサイの
花の唇を舐めながら、蛮氏がピンクのアジサイのツンと尖ったウス
クレナイの乳首を触っているのをにらんでいる。触氏はやわらかな
白い腹を滑るように這いながら浅くくぼんだ臍の中にゆっくりと肉
を動かせたが、すぐに嫉妬に狂った蛮氏がつややかな黒い陰毛の林
をぬるりとした肉ですり抜け、紫色のアジサイの谷に舌を這わせる
のを幻視していた。触氏は白い尻のまるみ枕して、青いアジサイの
さわやかな匂いを胸に吸い込んだ。やがて蛮氏は紫色のアジサイの
細くくびれた腰のあたりを角の肉を伸ばしたり縮めたりしてくすぐ
って花を小刻みに痙攣させるにちがいないと思うと触氏は怒りがこ
みあげてきて、またミサイルを空に向けて蛮氏を威嚇した。こうし 
て、触氏と蛮氏は二千三百八十九年間の争いを今も続けている。花
の華やかなガクのウスミズイロのアジサイのヒカリを抜け、いつ
ものようにカタツムリはアジサイの緑色の大きな葉っぱの上をゆっ
くりと歩いているところである。


         食指動く

楚人、黿(げん)を鄭の霊公に献ず。公子宋と子家と、将に入りて見えんと
す。子公の食指動く。以て子家に示して曰く、他日、我此くのごと
く、必ず異味を嘗めり、と。入るに及び、宰夫、将に黿(げん)を解かんと
す。相ひ視て笑ふ。公、之を問ふに、子家以て告ぐ。大夫に黿(げん)を食
せしむるに及びて、子公を召し、而れども与えざるなり。子公怒り
て、指を鼎に染め、之れを嘗めて出ず。/―『春秋左氏伝・宣公四
年』―/私は中学生の頃、老荘思想に染まった。老子、荘子、列子
などは私の非才をよく慰めたものであったが、他の諸子百家もよく
読んだ。墨子、韓非子、孫子などにも及んだ。しかし、、まじめな私
は孔子、孟子はもちろん身を修するために親しんだ。ただ非才な
る故、しばしば挫折を味わった。『春秋』は孔子の著なれど断片的
で不可解なること現代詩の如くであった。魯の左丘明はそれを憂い、
三十巻の注釈書を著した。むろん中学生であるから解説本を読んだ 
に過ぎないと思うが、食指動くというのもその中のエピソードであ
る。人差し指が動いたから、美味しい物が食べられるというのは奇
妙な話だ。黿(げん)とはスッポンのことである。贈られたスッポンの料理
を宋に食べさせなかった霊公も変だ。指を鼎に突っ込んで舐めたと
いうのも変な話だ。食指というのは人差し指ではなく、男根だとし
たらどうだ。おい、いい加減にしろ、そんな解釈をしたやつは。紀
元前から現代まで一人もいないぜ。ああ、朝に道を聞かば、夕べに
死すとも可なりだ。私はやはり、荘周の生まれ変わりだったのだな。
わははははは。


      浜辺の読書

灰色の広々とした砂浜が広がっていました。海はずーっと向こうの
方で、終日、白い波が牙をむくように打ち寄せていました。青空と
白い雲とギラギラした太陽が、頭上で輝いている誰もいない砂浜で
した。一本の大きなビーチパラソルの影で、男がひとり木の椅子に
座って、机に分厚い本を拡げて読んでいるのでした。男は時々、声
をあげて楽しそうに笑ったり、急に真顔になって、ぽろぽろ涙を流
したりしています。男が顔をあげると、裸の女がゆっくりと歩いて
くるのが見えました。真っ白いまぶしいほどの肉体の熟れた裸の女
が、微笑みながら近づいてくるので、男はアッと言って目を見張り
ました。急に走り出すと女は男の傍をすり抜けました。甘い女の匂
いが、男の心を騒がせましたが、その後ろから女を追って、真っ黒
い毛の生えた獣のような男が追っていくのが見えました。その出来
事は、一瞬のように思いましたが、たちまちものすごいスピードで、
二人の姿が遠くに小さく見えました。追いついた男が女を押し倒し
ました。けれど、再び女は起き上がり、逃げていきました。何度か、
その情景は繰り返されましたが、いつの間にか、二人とも男の眼前
から消えていました。男は、何事もなかったかのように、また机の
上の本を読み始めました。
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いつもながらの冨上芳秀の詩の世界の展開である。
専ら「散文詩」のぎっしりと詰まった作品である。面白いプロットなどを、楽しんでもらいたい。





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