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K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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詩「鎌八幡」・・・冨上芳秀
詩遊_NEW

──冨上芳秀の詩──(12)

      鎌八幡・・・・・・・・・・冨上芳秀
       ・・・・・・「詩遊」No.68所載・・・・・・

円珠庵は三韓坂にある。この坂は異国からの来賓を迎えた鴻臚
館があった古道である。その前を通った時、私は江戸時代の初めに
国学の祖と言われた契沖が庵を結んだ地だと知った。
ある時、円珠庵で古典文学の講座が開かれているということを知
って、問い合わせの電話をかけた。「御祈祷ですか」という返事に、
何か、不思議な感じを受けた。私は祈祷とか、占いというものを、
異常なまでに嫌悪する傾向がある。結局、私はその講座にはいかな
かった。
それから、何年も経ったある時、私は円珠庵を訪ねようと思った。
というのは、その時、私は文学散歩にはまっていたからである。調
べてみると文学の舞台になった土地、お墓、歌碑や詩碑などいたる
ところにあった。地理的空間を移動すれば、時間の重層を旅するこ
とができる。実際に歩くことによって、その土地の気を感じる。ま
た、運動にもなる。
小さな階段を登ると木々の生い茂った薄暗い庭である。寺の玄関
は奥にあった。ここで契沖は『万葉代匠記』を著したのである。左
手には、榎の大木があった。私は、あっと息をのんだ。その太い幹
には江戸時代に使われていたような鉄製の鎌がびっしりと打ち込ま
れていたのである。それが、噂に聞く鎌八幡であった。大坂冬の陣
で、真田幸村が、境内にあった榎に鎌を打ちつけて勝利を祈願した
という伝承があった。だが、願いの意味はいつしか悪縁を断ち切る
切実な信仰変わっていった。私の目の前の夥しい鎌は苦悶し、叫ん
でいる。新しいものが多いが、中には木製部分が朽ち落ち、赤さび
た刃の部分のみが残っているのもある。「あの男と別れさせてくだ
さい」という意味の切実な願いが書き込まれた絵馬が掛けられてい
た。お寺で御祈祷してもらい、鎌を打ち込むのである。
久しぶりに訪れた鎌八幡の境内は、撮影禁止となり、絵馬はすべ
て裏返されて、願い事が見えないようになっていた。しかし、相変
わらず、悪縁断絶の必死な祈りの声が渦巻いている静かな鎌八幡で
あった。世の中には、縁結びを願う明るく幸せな願いもあるが、そ
の逆に、悪縁に苦しむ人生もある。付きまとわれ、痛めつけられ、
苦しみ悶えながら、なお未練が残る人々の愛憎の情念の苦悩を鎌八
幡の榎は傷つきながら引き受けて立っているのであった。
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畏敬する冨上芳秀氏の近作である。
こういう「行分け」しない散文詩の手法が最近の冨上芳秀氏のものである。
玩味して鑑賞してもらいたい。





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