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K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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冨上芳秀の詩「大人の森」など4篇
詩的現代_NEW
 
──冨上芳秀の詩──(13)

       冨上芳秀の詩「大人の森」など4篇
           ・・・・・「詩的現代」No.35/Decenber.2020所載・・・・・・・

       大人の森      冨上芳秀

「もう少し大人になってください」大人になるというのは股間に毛を生やすこ
とだと思って、もやもやとたくましく育てました。「ああ、すっかり何でも妥協
することができるように成長しましたね」森の闇のなかで生息している小鬼は
とてもクレバーです。でも、小鬼って何かの喩えでしょうと毛根に住む眠り姫
が尋ねました。股間にできた森も、その森に澄むいたずらな小鬼も何かの譬え
ですって。それは、森の中で大きくなったり小さくなったりしているペニスの
譬えだとあなたは言いたいのですね。残念ながら、小鬼は奥深い緑の森に棲ん
でいる小鬼以外の何者でもないのです。ペニスはあなたのペットでしかありま
せん。肉色のペニス、赤黒くたくましく怒張しているペニス、いいですねと軽
薄な笑いを浮かべながら。森の中にひっそりと建っている小屋から出て来て、
せっかくたくましく成長してきた大人のペニスを平凡な人生のごみ箱にポンと
捨ててしまいました。「もう少し大人になってください」と世界は大きく閉じて
きたのでした。

         眠る男

「毎晩、お酒はどれくらい飲みますか」「さあ、わかりません。いつも飲みた
くなくなるまで飲んでいます」医者は苦笑しました。緑色の猫の眼をした若い
美しい看護師はいつものようにやさしく微笑んでいます。すずしい風が町の
人々の疲れた脳髄を鎮めるように吹き抜けていきます。山の向うの更に重なっ
た果無しの山脈の山巓で大きな男が眠っています。太陽が昇っても沈んでも男
は眠っています。もちろん夜も男は眠っています。星明りの下で男は安らかな
寝息を立てています。男の鼻から漏れる息が風になって人々の胸を吹き抜けて
います。男は眠ってばかりですが、いつ目を覚ますのでしょうか。「睡眠時無
呼吸症のおそれがありますね。身長は何センチですか」「百七十三センチです」
「すると、七十八キログラムが適正体重です」森の湖のほとりで真っ黒い猫が、
九十四グラムもある大きな金色の鯉を緑色の眼を燃やして狙っています。ガシ
ガシガシ、猫が骨を噛む音が森の中に響いています。眠っている男の呼吸が止
まりました。静かな夜です。うがーと大きな音を立てて男はまた呼吸し始めま
した。もうすっかり朝になって人々は忙しく働きだしました。明るい太陽の下
で、男は静か寝息を立てて眠っています。

       神様の徘徊

真夜中に何度も玄関のブザーが鳴る。今夜も神様が外を徘徊しているのだ。あ
まりうるさいので、ドアを開けて外に出るとステテコに、チヂミのシャツを着
た白い姿の神様が、「私は手足がガンで歩けないのです」と細い手足をふらふ
らさせて哀れな表情で訴えかけてくる。「眠れなくて、とてもさみしいのです
」「さびしいからといって丑三つ時に、他人(ひと)の家のブザーを何度も鳴ら
すのは迷惑ですよ」「眠れないのです」「とにかくこんな時間にブザーを鳴ら
すのはやめなさい。おやすみ」と言って、私は拒絶の意思を示すためにドアを
乱暴にバタンと閉めた。神様と私の時間の川は、全く別の位相を流れているの
に、突然、踏み越えようとしてきた。「バカなやつだ」いくら結界を超えよう
としても無理だ。「助けて」と叫んでいる白い姿は遠い川の暗い流れに消えた。
私はそんな神様が何人、自らの川に溺れて死のうと何の関心もない。目の前の
パソコンの画面の中には、この世の暗い現実が映っている。その画面を食い入
るように見ている私の背後には過去の幽霊たちが私の生を冷めたく笑っている。

       マスクの世界

唇に微笑みを浮かべているのに、マスクをしているから私のあなたへの好意が
伝わらないのでしょうか。あなたのマスクの下には人の好い微笑みが私に向け
られていると信じています。でも、あなたのマスクの下には意地悪にへの字に
曲げられた唇が見えます。だから、私も唇をへの字に曲げてあなたに向き合っ
ています。白いマスクをした人たちができるだけ会話をしないように、距離を
保って行き交っています。でも、本当にマスクの下には唇があるのでしょうか。
「ねえ、あたしってきれい」マスクを取った女の口は大きく裂けているのでし
た。ずいぶん昔、小学生を恐怖に陥れた口裂け女の都市伝説です。私が見たの
は、それとはまったく違っていました。口ではなく深い大きな穴でした。そん
な穴を見た者は、その穴に吸い込まれて穴の世界に生きなければなりません。
マスクの下には何がある。そんなことは言えません。口が裂けても言えません。
マスクの下の暗い穴を見つけた時、私もマスクを取って私の暗い穴をあなたの
暗い穴に重ねたのでした。そのぬめぬめとした快楽の事は誰にも言えない秘密
です。
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この精力的な冨上芳秀氏の詩作には、瞠目するばかりてある。
プロットが、とにかく面白い。
4連目の「マスクの世界」など、現下のコロナ騒ぎの中での「マスク」についてアイロニー深く追求していて秀逸である。
とにかく冨上芳秀氏の詩作からは目が離せない。
ご恵贈有難うございました。ここに披露して皆さんのお目にかける次第である。益々のご健筆を。
既に、ご承知だろうと思うが、冨上芳秀氏は「大阪文学学校」の詩部門の講師を担当されている。
この学校は小野十三郎らによって設立され、ここの学生からは芥川賞や直木賞作家を何人も輩出している。








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