
男(を)の雛の黛(まゆずみ)暈(かさ)をもちたまふ・・・・・・・・後藤夜半
雛祭は、もともとは旧暦の三月三日であったから、桃の花が麗しく咲き誇る季節であり、桃の花や白酒、菱餅などが供えられた。
九州の柳川では、この時期には「川くだり」の舟の中から見られるように家々が雛壇を飾るのが恒例である。
なお、男雛と女雛の置き位置が、京都と東京では逆であると言われる。調べられたい。

今は太陽暦の新暦で祭るから植物的には違和感がある。
つまり、太陽暦の今では野外ではまだ桃の花は咲いていない。だから写真②のように「切花」を飾る。
これらはビニールハウスを使った「促成栽培」である。
先年十二月に上海に行ったが、その同行者の中に大阪・河内の花卉栽培農家が居て、促成栽培の話を聞いた。
今でも女の子の居る家では「おひなさま」を飾るが、家の広さに制限があり、簡単な飾りで済ますところも多いらしい。
だから昔ほど、おひなさまを囲んでという光景は薄れたと言えようか。
雛祭の古い句としては
とぼし灯の用意や雛の台所・・・・・・・・加賀千代女
雛祭る都はづれや桃の月・・・・・・・・与謝蕪村
蝋燭のにほふ雛(ひひな)の雨夜かな・・・・・・・・加舎白雄
などが挙げられよう。
近代以後の句も歳時記にはたくさん載っているので、いくつか引いておく。
「雛」の字の読み方としては、前後の音数の関係から「ひな」と訓んだり「ひひな」と訓んだり区別する。
いきいきとほそ目かがやく雛(ひひな)かな・・・・・・・・飯田蛇笏
箱を出て初雛のまま照りたまふ・・・・・・・・渡辺水巴
雛の唇(くち)紅ぬるるまま幾世経し・・・・・・・・山口青邨
鎌倉の松風さむき雛かな・・・・・・・・久保田万太郎
かんばせのひびのかなしき雛かな・・・・・・・・野村喜舟
函を出てより添ふ雛の御契り・・・・・・・・杉田久女
老いてこそなほなつかしや雛飾る・・・・・・・・及川貞
雛の座を起つにも齢の骨鳴りて・・・・・・・・石川桂郎
初雛の大き過ぎるを贈りけり・・・・・・・・草間時彦
近ぢかと見知らぬ乳房ひなまつり・・・・・・・・・鈴木明
雛まつり薬缶も笛の音色して・・・・・・・・成田千空
ひとり居の雛とぢこめて出勤す・・・・・・・・菖蒲あや
木に彫つて寧楽七色の雛かな・・・・・・・・飴山實
日の高きうちより点し雛の燭・・・・・・・・片山由美子
灯すもの灯して寂か雛の間・・・・・・・・浜崎浜子
雛壇を奥の一間に鮮魚店・・・・・・・・中間秀幸
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私の家では女の子ばかりだったから「お雛さま」を当然飾ったが、亡妻が実家から持ってきた木彫りのミニ雛を
玄関内の飾り戸棚の上に赤い毛氈を敷いて飾っていた。
素朴だが趣のあるものだった。今ではみな家を出てしまったので、出してはいない。
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