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K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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石井光太『レンタルチャイルド』―神に弄ばれる貧しき子供たち―・・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
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──新・読書ノート──

 石井光太『レンタルチャイルド』―神に弄ばれる貧しき子供たち―・・・・・・・・・・・・・木村草弥
             ・・・・・・・・・・・・・新潮社2010/05刊・・・・・・・・・・・・・・・・・

石井光太の本は以前に『神の棄てた裸体─イスラームの夜を歩く』(新潮社2007/09刊)を読んで旧Doblogに記事を書いたことがある。体当たり的なルポを書く人である。
以下、新潮社の読書誌「波」六月号に載る「書評」を、そのまま引いておく。
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      高度成長真っ只中、インドの商都ムンバイの街角。
      物乞いは憐れみを誘うため、マフィアから借りた赤ん坊を抱き路地に立っていた。
      だが月日を経て、その赤子は「路上の悪魔」へと容赦なく変貌させられていく。
      そして、今。子供たちの「その後」は? 最後に著者の目に映るものはなにか。
      執筆に十年をかけた渾身のノンフィクション!

    痛くてたまらない文章・・・・・・・・・・・・・東 えりか

 石井光太の文章は痛い。読んでいると、体が痛くてたまらなくなる。こういう経験は今までしたことがない。例えれば、映画の拷問シーンで目をそむけたり、地獄を描いた宗教画で戦慄したりするのと似ているかもしれない。しかし、石井のノンフィクションは文字で表す。心と体の痛みは弱者が生きるために不可避なこと、それはデビュー作『物乞う仏陀』から繰り返し描かれてきた。アジア諸国の障害者や物乞いを追い続けたルポルタージュは、若さに任せて突っ走った作品だったが、下層の人々の痛みを読者に強烈に印象付けた。
 新刊『レンタルチャイルド』を読んでも痛い文章にクラクラさせられる。舞台はインドのムンバイ。以前はボンベイと言われていた、インドの西海岸に位置する国内経済の中心、商都である。映画好きなら「ボリウッド」発祥の地であると聞けば、あそこね、と思うかもしれない。中心街には大企業のビルが立ち並び、富豪や映画スターの豪邸が目を引く。しかし反面、巨大なスラムが存在し、人口の半分の人々は狭いバラックで暮らしている。
 二〇〇二年、石井は町で見かける障害を持った物乞いを調べ始めた。都市伝説のように流布する「障害者の物乞いの中には故意に体を傷つけられたものがいる」という噂を追って、手当たり次第に声をかけ続けた。やがて全身が疣に覆われた不気味な男から一人の青年を紹介される。片目の元路上生活者「マノージ」との出会いであった。彼は幼い頃にマフィアに片目を潰され物乞いにされた。しかし数ある障害の中で片目が見えないというだけでは、人々の同情を買うには弱い。そこで、不気味な風体で荒稼ぎする疣男の慰み者となり生きてきたのだった。日常会話なら流暢な英語を話すマノージは石井にとってありがたい相棒であり相談相手となった。
 何らかの原因で路上生活をする子どもを捉え、体を傷つけて障害者の物乞いを作りその稼ぎを搾取する。ムンバイにはそんなマフィアの組織がいくつもあった。同情を引くために女の物乞いに赤ん坊は必要不可欠だ。マフィアは、どこからか調達してきた赤ん坊を宛がう。本書のタイトル「レンタルチャイルド」である。傷つけられ血を流しながら人々の喜捨を待つ少年の痛々しさは、文章なのに思わず目をつぶってしまうほどだ。
 この取材で石井は、五歳から十代前半の路上生活少年グループのリーダー的な存在であるラジャという少年と出会った。薄汚れてはいるが、目鼻立ちがはっきりとした聡明な顔立ち。彼との出会いが、石井にとっても、またこの作品にとっても大きな意味を持ってくる。
 二〇〇四年、二〇〇八年とムンバイの取材は時間を置いて行われた。六年というのは、子どもにとって長い時間である。この間インドは大きな経済成長を遂げた。特にムンバイは日々土地の価格が暴騰するいわゆるバブルまっただ中となった。スラムは壊され大きなマンションが建築される。夥しい数の路上生活者は駆逐され、郊外へと逃げた。マノージは疣男から離れ、靴磨きから肉体労働者となって稼ぎ、妻を娶り小さい借家で落ち着いた生活を送っていた。
 一方ラジャは、ムンバイから電車で一時間ほどのベッドタウンで暴力で支配する側に回っていく。ムンバイの闇組織はアフリカ系の移民に乗っ取られ、物乞いや売春婦はラジャたちに付いて郊外へ避難していたのだが過酷な暮らしは変わらず、最下層の人々の頭の上を好景気が素通りしていく。
 石井自身、二十五歳で始めたアジアの最下層からのルポは本書が集大成となる。ひとりの日本人の若者が、インドの闇の部分へ潜り込み、若さにまかせてがむしゃらな取材をしたことは暴挙であったかもしれないが、図らずもインドの経済成長の記録ともなった。中国と肩を並べて成長し続けるインドという国の、隠してしまいたい裏の歴史を、日本の若者が書き上げた。このことを素直に賞賛したいと思う。     (あづま・えりか 書評家)
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石井光太には「公式ホームページ」があるのでアクセスしてみてください。Twitterもやっているらしい。
このページから河出書房新社の「KAWADE Web Magazine」に連載公開中の「飢餓浄土」の最新作が読めるのでトライされたい。

彼の著作──
『日本人だけが知らない日本人のうわさ』(2010年光文社)
『絶対貧困』(2008年光文社)
『物乞う仏陀』(2005年文芸春秋社、2008年文庫化)


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